第3章 深紅の塔(クリムゾン・タワー)

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 扉の周りにいた男たちがその光景を眺める。一発の銃声が廊下に反響するように  響いた。銃を撃った男はそのあと少女に覆いかぶさるように膝を地面につけた。  そのまま小刻みに全身が震えているのが分かった。扉にいた仲間はその状況を  見て思わず声を上げた。     「おいおい……。こんな時にお楽しみかぁ~。」  下卑た笑い声を上げながら覆いかぶさった男をからかう。若い女に節操のない  男への侮蔑の意味も込めているようだった。だが数秒後様子がおかしいことに  気づく。それはテロリストたちの想像外の出来事だった。  あの時男は確かに少女の額に銃を突き付けて弾丸を打ち込んだはずだった。  銃声がしたのも確かに聞こえた。だがなぜか少女の額には血の跡がない。  それどころか瞬時に顔を背けて弾丸はすぐ横の地面にめり込んだ。次の  瞬間男の呼吸が苦しくなる。額から顔にかけて顔面が蒼白になる。完全に  酸欠状態だった。男は目線を下に向けると少女の右手が男の首に伸びていた。    蛇が咬みつくかのように人差し指と親指が男の頸動脈をすさまじい力で  圧迫する。同時に、少女は男の膝を蹴り飛ばし男は膝から崩れ落ちた。  重力も味方して一気に脳への血流が停止する。銃で撃たれて腕は損傷して  いるはずなのになぜと男が思考し始めたころには意識を完全に失っていた。  意識を失った男を少女は横に引き剥がす。そして少女はゆっくりと立ち上がる。  明らかに先ほどとは雰囲気が違っていた。ブラウンの瞳は輝く青色に変化して  おりあどけない少女は人間味を感じさせない異質な存在に変貌していた。  扉にいたテロリストたちはその異常さに気づいたがすでに遅かった。少女は  先ほど地面に落としたMP5をサッカーボールのように蹴り飛ばす。銃は  高速で回転しながら手前にいる下卑た笑いを見せた男の顔面に直撃した。  「はがっ!」  男は鼻を強打し痛みに顔を抑える。MP5は運動エネルギーを保ったまま  銃弾をまき散らしヘリコプターのように上昇する。周辺に穴をあけ残りの  テロリストたちは巻き添えにならないように姿勢を低くした。    少女はそのまま顔を抑えた男まで驚異的な速さで駆ける。左手を男の  首に巻き付け、その首を支点に旋回するように回転し今度は右手を  巻き付け地面に頭をたたきつけた。   
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