第4章 帰還せしモノ

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  「全然ないわよ。」いちかは反論する。   ムスッとしているいちかを見て、花蓮はクスクスと笑う。   「どうしたの?」   「やっぱりいつものいちかで安心したよ。ありがとう。」   花蓮は友達との他愛無い会話が現実に引き戻してくれる大切なものだと   気づき、いちかに礼を言いたくなったのだ。      「いいのよ。その顔こそいつもの花蓮だよ。」   いちかも満面の笑みで答えた。二人はお互いに談笑しなががら   学校まで歩いていった。   学校の門をくぐり校舎の中まで入る。花蓮はいちかと別れ   教室の近くまで来たとき、ふと思い出した。今日は透馬は   来ているのか?あのボロボロの状態だったらまだ来れないのか?   それとももう2度と会えないのか?疑問がぐるぐると頭の   中を渦巻いていく。   花蓮は緊張のあまり手に汗をかいていた。決意して教室の   扉を開く。教室内に入り周りを見渡すと花蓮は思わず息をのむ。      花蓮の席の隣には先週転校してきた男性が座っていた。フレームレスの   眼鏡を付けて机に置いた端末をいじっている。何食わぬ顔で花蓮を   見つめ話しかけてきた。   「奥山さん。おはよう。」   それは透馬に他ならなかった。2日前に右腕を失い、人口の赤い目を   見せたあの男だった。全身に目を向けると右手も存在し顔面も傷   一つない。でも彼女の記憶にはあの破壊された印象しか残っておらず   いまの状況には違和感しかなかった。     花蓮は唖然としていたが同時に安堵もした。   連絡がつかずそのまま透馬は消えてしまうのではないかと心の   どこかで思っていたから、とにかく目の前に現れたことは   心の底から嬉しかった。だが謎だけが残り彼女の中になんとも   いえないモヤモヤが漂っていた。   花蓮はその霧を払うため透馬の目の前まで歩き顔を思いっきり近づける。   そして耳もとで囁いた。   「放課後、屋上に来て。」                    
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