第4章 帰還せしモノ

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 放課後、いつもの屋上に2人はいた。透馬はフェンスを背にして直立し、  それを花蓮はじっと見つめる。2人とも一言も話さない。どちらかが  口火を切るのを待ち構えているようだった。やがてその沈黙に耐えきれず  花蓮が口を開いた。  「あなた一体何者なの? あの姿は何なの?」  「見ての通りだ。」  透馬は即答した。言葉を並べるより思い出してくれたほうがいいと考えた  からだ。    「透馬は……その……いわゆるロボットなの?」  花蓮は意を決して本題に触れる。透馬は沈黙していたが諦めたかの  ように口を開く。     「人工知能ではない。栗須透馬は一人の人間として存在している。  ただ、体がちょっと特殊なだけだ。」  「ちょっとどころじゃないけど……つまりはサイボーグってやつ?」  透馬はその言葉に一瞬怪訝な表情をする。  「そう考えてもらっていい。」  そう言って花蓮に目を合わせた。  花蓮はまだまだ疑問に思ったことがあり質問してみることにした。  「あの時腕もなかったし目もおかしかった。なんで今無傷なの?」  「2日前の事件や君を助けたときの体は今、目の前にあるものと違うんだ。   あの髑髏の仮面を付けるときは戦闘用のボディ。今のボディは   人間社会に溶け込むために特化した代物だ。」  そう言って透馬は急に大きく口を開けて笑い出す。そのあとすぐに  眉を吊り上げ、目を見開き怒っているような表情を見せた。すると  今度は大粒の涙を流し、しょんぼりとうなだれた。   花蓮はその喜怒哀楽を巧みに見せる透馬の表情に正直驚いた。  「うそでしょ……。機械仕掛けとは思えない。」  「表情を人間らしく作るために顔面に数百のアクチュエータを内臓している。   また皮膚や髪の毛は自分の細胞から培養した生体部品だ。」   そう言うと、左腕を花蓮の目の前に差し出す。花蓮がその左腕に注視する   といきなり右人差し指を左手に向かって突き刺した。皮膚を突き抜け指を   ぐりぐりと動かす。思わず花蓮は目を背けようとしたが改めて見ると   赤い血が流れだしていた。     「この通り……血も流れる。そして人口筋肉にはリミッターがかかっているから   人間を超えた力を間違って見せることもない。まず機械とは気づかれない。」          
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