第4章 帰還せしモノ

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 「休暇だぁ?何言ってんだ?」  悟朗の口調は荒い。だが秋晴も引く気はない。  「悟朗さんもわかっているでしょう?もう潮時ですよ。」  「潮時だと?」  「こないだの爆発を見たでしょ。あれはもう僕らの対処できる   限度を通り越していますよ。これ以上関わったら命を落とします。   僕は嫌だ。」  秋晴は目を背けず堂々と悟朗に向かう。   「何だと?」  悟朗はツカツカと目の前まで歩き、秋晴の襟をつかみ絞り上げる。      「こんなところで死ぬのはごめんってことですよ…そんなに   追いかけたいなら悟朗さん一人でやってください。」  秋晴は悟朗のにらみから目線をそらす。その表情には不安と恐れが  見え隠れしていた。   「お前…どうしたんだ…」   「どうかしたのは悟朗さんでしょ!? あの子が遺産の相続人?    よくもそんなウソをつけますね。」   「あれは……嘘じゃねぇ……そう聞いてたんだ。」   「それに黒髑髏が出てきて、あの子と一緒に行動している事実。    なにも知らなかったとか通用しませんよ?」   「俺も知らなかったんだ。あの時初めてみた。本当だ……」   2人は荒々しい言葉で部屋中に響きあうくらい声を上げる。     秋晴は襟をつかんでいる悟朗の手を無理やり引き剥がした。   「黒髑髏が悟朗さんのキャリアをつぶしたのは知ってますよ。   あの子を餌にして直接復讐したいんでしょう?そんなのに   僕を巻き込まないでください。」   秋晴の一言は悟朗の触れてはいけない部分を深くえぐる。   悟朗は右拳を振り上げ、秋晴の顔を殴りぬく。秋晴は後ろに   飛ばされローテーブルに倒れこんだ。テーブルの上にあった   灰皿やグラスが床に散乱する。      「お、お前に何が分かる……何も知らんお前が……」   悟朗の顔は例えようのない怒りで歪んで見えた。   秋晴もまた自分の軽率な言動を心の底から悔やんだ。   「す……すみません。」   「出ていけ!」   悟朗は部屋中に反響するくらいの声で吠えた。秋晴は   何も言わずバックを手にとりそそくさと事務所の扉から出て行った。   悟朗はその姿を見ながら悲しげな表情を見せる。   「糞……そんなんじゃねぇんだよ。俺はただ確かめたいだけなんだ…」   悟朗は天井を見つめただ立ちすくむだけだった。  
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