第4章 帰還せしモノ

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  兵士の目には恐怖の光が広がっていた。   「怖いか?無理もない。だが本当に怖いのはあんな奴を生み出した存在が    別にいるってことだ。奴は他に行き場所がないんだ。戦場でしか生きること    が出来ないある意味哀れな生き物。そんな呪われた存在を世に    放った奴がいるとすればそれは悪魔かなにかだとは思わないか?」      司令官の言葉に兵士は額の汗を拭う。   「そうかもしれませんが……奴はその戦場にすら行き場所がないように    思えます。」   「そうだな。とにかく奴には必要以上に関わらないことだ。」   指揮官と兵士はお互いに意見が一致したようなシンパシーを感じた。   兵士たちが斜面を駆け抜けて前線を押し上げる。凄惨な現場だった。   五体満足な屍が一つも存在しない。どこかが失われ、血や肉が散乱   している。まともな人間がその場にいれば精神に異常を来たすだろう。   この状況を作り出した男は夜空に目線をむけていた。ちょうど満月の   夜。月明りが木々の間に薄っすらと差し込んでいた。   突然男は腰のポケットに手を入れる。そこには携帯端末があった。   軍用モデルで堅牢性を重視し特殊な樹脂で覆われている。端末を   確認すると衛星電話の着信が表示されていた。男は耳に手を当てる。   「久しぶりだな……まだこの回線を覚えていたとはな。」   男は低い声で端末に向かって話しかける。   「お前のことを忘れるものか。相変わらずのようだな。」   その声は天野博士だった。遠い日本から直接連絡してきたのだ。   「相変わらずか……そう作ったのはあんただろう。今更何の用だ。」   男の声は怒りに震えていた。   「魔女を見つけた。しかもこの日本にいる。」   天野博士の言葉に男から思わず笑みがこぼれる。   「本当か?! 嘘じゃないだろうな?」    「(けい)が目覚めた。彼が言うならおそらくは……」   「だが彼女は死んだはずだろ?」     「だからだ…お前に本物か確かめてもらいたい。海燕(かいえん)。」       海燕は森全体に響くくらい大きな声で高々と笑う。まるで大好きな玩具を   買ってもらう子供のように目が輝いていた。   「いいだろう。久しぶりに故郷に帰るか。」   海燕は日本の方角に目を向けた。               
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