第4章 帰還せしモノ

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 ポスターの横の扉を開くともう一つ部屋があった。  この倉庫と同じくらいの大きさだったがさらに狭く感じだ。  それは目の前に大きな物体が置いてあったからだ。    演奏やライブでよく見るドラムセットだった。その手前には  小さな箱のようなスピーカー。端にはスタンドにかけられた  エレキギター、布で覆われた四角い物体はキーボードだろう。  透馬は意外な光景に驚きを隠せない。 「残念でしたぁ。うちは軽音楽同好会です~」  いちかはいたずらっ子みたいな笑みを浮かべる。 「オカルト研究会だろ実は……」  透馬は冷静なトーンで突っ込む。いちかは首を振る。 「よく言われるんだけどさー。あれはまあ趣味よ。  部室ちょっと味気なくてさぁ。自分の部屋だと  サイズが大きすぎるし。ちょうどいいかなって」 「待ってくれ。じゃあ本当に軽音楽部なのか?」 「同好会よ。3人しかいないんだから……」  いちかは透馬の言葉を訂正する。そのやり取りを  見ていた花蓮はクスクス笑う。    「5人以上いないと部活として認められないの。同好会って  立場が弱くて……まともな部室も与えられないのよ。  軽音楽って結構人気だと思うけどなんで集まらないのかなぁ」  ――あのポスターのせいだ――透馬は冷静に分析した。 「3人っていったがもう一人いるのか?」 「そうよ。ろくでなしが一人ね。今日はたぶん顔出すと  おもうけど……」   いちかは携帯端末を取り出し、連絡がないかチェックする。  内容を確認するように指を添わせるにしたがって  いちかの顔がだんだんと険しくなってくる。 「ちょっと待ってて」  いちかはそういうと扉を開けて外に飛び出していった。  透馬と花蓮はその状況をじっと眺めていた。   「なんかすごいなあの子」  透馬も思わず口があんぐりとなりそうだった。  花蓮はにっこりとほほ笑む。 「でも面白いでしょ。いちかと一緒にいると退屈しないよ」  その時、扉からコンコンと音が聞こえる。扉の摺りガラス  から見えるシルエットは男性のようだった。 「はい?」  花蓮はその影に向かって返事をする。 「えぇ。えっと失礼します」  急にどもった声を出しそのあと扉が開く。そこには一人の  男性が直立していた。細身で髪を七三に分けている。  真面目そうな男性生徒だった。         
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