第1章 花蓮と透馬 

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 だが間髪入れず少女はすぐに態勢を変える。先ほどの右拳を引き、腰を回転させ  今度は残っていた左拳を打ち下ろすように男の胸板に狙いを定める。    男も少女が次の攻撃を仕掛けたことを理解し対応に移る。打ち下ろされた左拳  に呼応するように右肩を下げ半身になる。少女の左拳が胸板と並行になるように力を  逃がしこれも躱す。  男が連続攻撃を回避し態勢を整えようとしたとき、少女の行動はその先を行く。  打ち下ろしの左を躱された状況で重心が前方に移動したが、その運動エネルギーを  生かしたまま左肩から回転し飛び上がり、背中を向けたと同時に右足が  ロケットのように高速で男のみぞおちに突き刺さった。     普通なら横隔膜を収縮し苦しむのたうつはずだが、男は何食わぬ顔でその蹴りを  受けとめる。だが勢いを完全に吸収できず半歩衝撃で後方に引きずられた。  少し間合いが離れ、男と少女の間に距離が生まれた。少女の目は光輝く青色のまま  瞬きもしない。数秒ほど時間が経過したとき、少女側の廊下の奥のエレベーターが  開こうとし音を立てた。  音を聞いた少女が背後を振り向いた瞬間。男は反対側に向かって走り出した。  走り出したすぐ先に転がっていた仮面を左手で回収し、壁も兼ねたガラス張りの  突き当りに向かって走る。そのまま躊躇せず強化ガラスを突き破り外に飛び出した。  ホテルの高層ビルの窓からダイブなど正気ではない。だが髑髏の男はそれを  慣行した。勢いよく飛び出し数十メートルはあるであろう隣のビルの屋上に  まるで階段を数段飛ばして降りていくかのように駆け抜けた。   何事もなくビルの屋上に着地した男はそのまま勢いよく屋上のコンクリートを  走り抜け、また隣のビルに乗り移る。それを繰り返し男は視界から完全に消えた。                           
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