第4章 帰還せしモノ

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第4章 帰還せしモノ

 それは夢だった。周りが靄のようにぼんやりとしているが何を  しているかはわかる。どこかの一室、歴史を感じさせる建物の  ようだ。周りにある家具や食器から中国の民家だと想像できる。    その部屋の中で乾いた音が繰り返される。目の前には大きな木製の  柱のようなものがある。左右2か所、下に1か所、枝のように木の棒が  伸びている。その棒に自分の手をたたきつける。ある時は絡みつけるよう  に腕を回し下の棒には蹴りを叩き込む。その動きをひたすらいろいろな  パターンで無心に繰り返す。だんだん速度も上がりそれに応じて乾いた  音もドラムロールのように鳴り響く。  やがて背後から何者かの声が聞こえ振り返る。すると必ず  次の場面に移動する。これが夢であるとわかる証拠だった。    次の光景は先ほどとはまるで異なっている。どこかの研究施設  のようで周りには精密機械が並んでいる。ガラス張りの部屋は  管理ルームのようだった。そのガラスの先には一人の男性がベットの  上に眠っている。年は30代後半くらいで無精ひげが印象に残る。  なによりも特徴的なのは男性の頭にある物体だった。    男性は頭をすっぽり覆うくらいのヘルメットを身に着けていた。  ヘルメットからは無数のコードが伸びており赤と青のコントラストが  特徴的だった。そのコードの先には巨大なサーバーが設置されており  青いパイロットランプが常に点滅していた。管理ルームからじっと  覗きながら目の前の端末にあるデータをチェックしている。  ガラスに反射した自分の姿は、輝くような金髪の美しい女性だった。  端正な顔つきだがどこかオリエンタルな雰囲気も醸し出し、  野暮ったい研究服とのギャップが印象的だった。  女性は端末に出力されたデータを眺める。その瞬間最後の場面に  移動した。  最後は決まってこの場面だった。山中に取り残され周りを見渡す。  そこには飛行機の残骸と、多くの屍が散乱している。そこには  一人の男性が背中を向けて立っている。ゆっくりと近づいて  その男性の肩に手をかけて振り向かせる。  そこには髑髏を模した機械の顔があった。深紅に光る瞳孔は電子音  を奏でてピントを合わせるように動く。得も言われぬ恐怖が  襲い、暗い穴に落ちるように現実世界に引き戻される。     
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