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第1章 花蓮と透馬
煙が立ち込める中、二つの影が対峙していた。
広々とした廊下はまっすく続いており、少し進んだ右手側には
大きな両開きの扉、反対側にはガラス張りの景色が見える。
一つの影の横に見えるのは倒れた男。軍用ブーツの足裏が時々痙攣で
ピクピクと震えていた。天井の空調装置が音を立てて白煙を吸い込んで
いく。少しずつ視界が良好になってきた。
正面に立つのは漆黒の姿。両手に銃のような物を携え、対角線上にいる
影に狙いを定めている。その顔は深紅の瞳をした髑髏のような仮面に隠されて
いた。
一方もう一つの影は小さくか細い。純白のドレスは埃で灰色が半分混ざって
胸元には流れた血が点々を描いていた。倒れた男の横にいる
その姿はあどけない少女のそれだが、明らかに様子が違っていた。
少女の目は数秒前人質に取られたときのものとは明らかに異なる。
ブラウンの瞳は光り輝く青に変貌していた。ホログラムシールのように
周りの光を乱反射させるその瞳からは人間性を感じられない。
死者のような不気味な冷たさがあった。
髑髏の仮面をつけた男は少女の異常性に気づいたが、躊躇することなく
一歩足を進める。 両手には銃を構えたままだったが、もう一歩少女に
近づいたところで、マジックのように両手から消えた。金属のスライド
音が小さく鳴った。
髑髏の男はパーティ会場を占拠したテロリストを制圧し圧倒的な戦闘力を見せた。
銃を隠したことは敵意がないことを示したのだろう。
続けてもう一歩足を進めたとき、少女が前のめりに崩れそうになった。
ノックアウトされるボクサーのように力なく正面から倒れそうに見えた。
髑髏の男はその少女を支えようと腰を曲げて受け止める体制を整えたその時、
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