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第一話
俺には妹がいる。
からかうと怒り、悲しいと泣き、その分嬉しいことがあると誰よりも笑う。そんなどこの家庭にでもわりといるような普通の妹だ。
「ねぇ、しずくー!いつまで寝てるのよ!」
「うるさいなあ、もう少し寝させろって」
「ああ!布団の中に逃げた!最後の忠告だよ!起きてよ!」
妹の乱暴なモーニングコールなんぞでは全く起きる気になれない俺は布団の四隅を掴み、丸々と繭態勢を取った。
「ふーん、そっちがその気なら私も容赦しないんだから!」
キュイーン
耳鳴りの様な音がする。まさかアレを打つ気か!?
その予想は見事に当たった。爆発音と共に布団は消し飛び俺は藻屑となった部屋の壁と一緒に外に放り出されたが、間一髪のところで桟を掴み事なきを得た。
「お、お前!家でぶっ放すバカがあるか!!」
「へーん、起きないしずくが悪いんだもんね」
妹が勝ち誇って腰に当てた腕から、白い煙がモクモクと出ている。
そう、ただ一つ変わっている事といえば。
俺の妹はロボットである。
「ほんとめちゃくちゃだな…」
あやうく朝から尊い命を失うところだった。
俺は見るも無残になった部屋によじ登り、制服に着替えて下に降りることにした。階段を降りきると、エプロン姿の母さんが妹を玄関まで見送っていた。
「もう、いつまで寝てるの。日和はもう準備できてるわよ」
「こっちは朝から死ぬとこだったし、部屋の壁に穴開けられたしベッドもまたダメになったんだよ」
「あんたが起きないのが悪いんでしょっ。来週までには直してあげるからそれまでは我慢しなさい」
おいおい、これから本格的に冬になるんだけど…。
母さんは妹を一切責めず、ましてや壁のことなんて一切触れない素晴らしいまでのドライっぷりだ。
なぜならこのデスモーニングコールは月に二、三回は起きている。つまり母さんはとっくにこの異常な日常に慣れてしまっているのだ。
「べーっだ」
妹が憎たらしく俺を煽る。頭から生えているツインテールまでトゲトゲしく俺に敵意を向けてくる気がした。
「おい」
「分かってるって。学校では"機能"《コマンド》を使うなってでしょ」
靴を履いている妹にいつもの忠告をしようとするも、今日もいつもの返しで遮られる。
そう、これは俺と妹の毎日の約束だ。あの事件が起きてからの。
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