永遠の始まり、断絶の終わり

7/8
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
A君が書いた数式は、かなり複雑な式だった。 「この式を見つけたのは、君が居なくなって二日後だったかな。君がタイムマシンを作るのを止めようと思って来たけれど、もう君は居なかった」 「A君、この式はどういう意味なんだい」 僕が聞くと、A君はまた曖昧な顔をした。 「これは宇宙は、因果律が狂うような状況が起こる場合、それを無かったことにするって言う意味の式だよ。矛盾が生じたら、その矛盾が起きたところを丸ごと消すんだ」 「成程、すごく珍妙な式だね」 「他人事じゃないよ、君にとっては大事な……と言うかもう意味のない式か」 「どういう事だい」 A君は、肩を竦めた。 「君はタイムマシンを作っただろう? だから、君はこの時間軸からいなくなったんだ。君は二週間前の日に閉じ込められているんだよ。ここにはもう君は居ないし、タイムマシンもない。全てなかった事になったんだ」 「そんなまさか。今僕はここに居るのに、僕はこの時間軸に居ないのかい?」 「そのはずだよ。嘘をついたって仕方ないだろう」 A君の目は、とてもまじめだった。A君が嘘をついた事を聞いたことが無いし、これは本当のことなんだろう。 僕がタイムマシンを作ったから、僕は居なくなった? 「そうそう、君はタイムマシンを作ったから、一応賭けは君の勝ちだよ。でも、そもそもタイムマシンは作れないから、賭けが成立しなかった訳だけれど」 「馬鹿な事を言うなよ。それなら、今から帰って僕が僕を止める」 「あっ、おい」 A君の声を背中に受けて、僕はタイムマシンに乗り込んだ。 僕が僕の発明で消えるなんて、そんな事有ってはいけないだろう。扉の向こうでA君が何か言っているが、僕は構わず起動ボタンを押した。 再び僕は、時空の裂け目に飲み込まれた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!