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ふたたび、梅の蕾がほころび始めたが、二人は帰ってこなかった。
久方ぶりに仕留めた雀を自慢したくて家まで銜えてきたのに、やはりじいさんも、ばあさんもいない。
猫は、誰もいない家では暮らせぬ。
われはこの家を出ると決めた。
もうこの家には戻らぬ。
この家には、ずいぶん長い間世話になった。最後に礼を言っておかねばと口を開くと、「達者でな」と人語が出た。
慌てて振り向けば、背中越しに二股に分かれた尻尾が見える。
われの尻尾の、なんと気の利かぬことよ。もう少し早く二股になっておれば、じいさんにばあさんの姿を教えてやれたものを。ようやく人語が話せるようになったというのに、今は言葉を交わす相手がおらぬ。
仕方なく、「おそい!」と、われの尻尾を叱りつけた。
「ふん。ゆくか」
少し不思議な心地がする人語を舌先で転がしながら、アスファルトの先に続く闇へと身を投じた。次は、われと同じくらい長生きする者と共に暮らしたい、そう思いながら。
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