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 四年前、ばあさんが死んだ。  以来ずっと、じいさんは独り暮らしをしている。  だがじいさんは、折々に口を開く。 「今夜は、お前の好物を作ったぞ」  そうして、里芋の小鉢をばあさんの席にことりと置く。すると、ばあさんがすいと現れて、席に着く。われとじいさんが食事をする間、ばあさんはただにこにこと笑って座っている。  てっきりじいさんにも、ばあさんの姿が見えているのだと思うておったが、とんと見えてはおらぬ。時々あらぬ方を向いて、話しかけている。  そっちにばあさんはおらぬぞと教えてやるのだが、われは猫ゆえ「にゃあ」としか鳴けぬ。それが存外口惜しい。われの尻尾は、まだ二股にはなっておらぬのだ。  今日もじいさんは、ばあさんがそこにいるかのように話しかけている。  そんな暮らしがもう四年も続いている。なんとも奇妙なものだと思う。  じいさんがばあさんの姿を見えるようになるか、われが人語を話せるようになるか、どちらが先か。そう考えると、くふりと笑いが漏れた。  だが、そのどちらでもなかった。  梅の蕾がほころぶ頃、じいさんが死んだ。
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