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今度はじいさんにも、ばあさんの姿が見えるだろう。だからまた、われと三人で暮らせるなと、そう思うておったのに。じいさんも、ばあさんも、いなくなってしまった。
そしてわれはまだ、「にゃあ」としか鳴けぬ。
じいさんの息子と名乗るいけすかない人間が固く戸締りしてしまったが、われ専用の小さな扉は塞がれなかった為、今もその家で待っている。人の気配が無くなった家は、どこか広い。
時々なんぞの気配はしても、それはばあさんでも、じいさんでもなかった。
空いた家に棲み付こうとする影は、そのたびに追い払っておいた。それがこの家の留守を任された、われの務めであると思うたから。
はらはらと散る桜の花びらを追い、地面に転がる命の尽きかけた蝉と戯れ、そうしてわれはずっと一人で待っていた。
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