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閉店後、片付けをしている逸人は、なんだかすっきりしたような顔をしていた。
会社の方がようやく落ち着きそうだと思ったからだろう。
「芽以」
食洗機に入りきらなかった皿を洗いながら、逸人は言ってくる。
「さっき、お前は、俺は日向子のことがなければ、お前とは結婚しなかっただろうと言っていたが。
もし、そうなっていたら、俺は誰とも結婚していない。
子どもの頃から、結婚して誰かと暮らす未来を思ったときには、いつも頭の中に、お前が居たからな」
お前はずっと圭太と居たのに、それでも―― と逸人は言った。
水を止め、こちらを向く。
「芽以……」
はい、と見上げると、
「結婚とはイバラの道だ」
と逸人は語り出す。
俺の両親を見てるとよくわかる、と。
いや、もっといい話はないのですか、と思っていると、逸人は、
「それでも俺はお前と一緒に年をとっていきたい。
そして、長い人生の最後にお前と暮らした日々を振り返たい」
そう言った。
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