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効いた!?
ふっと肩が軽くなって、再び全力疾走出来るようになった。そういえば松葉でっぽうを握っている手が、ほんのりと温かい。目を落とすと、こぶしが淡く明滅していた。この松葉でっぽうが、『あいつ』を退けたんだ。そう思うと、勇気が膨れ上がった。
僕は全力で走りながら、祈るようにこぶしを額に当てた。
ばあちゃん、ありがとう。そして、僕を待ってくれている…………誰か。よく思い出せないけれど、僕はその誰かの元に戻らなくてはいけない。
その時、こぶしの光に呼応するかのように、前方に小さな光が見えた。
たぶんそこまで辿り着けば逃げ切れる、なぜかそう思えた。なにがなんでも、あの光のある場所へ行かなくては。
後方で蹲っていた黒い気配が、またぞわりと膨れ上がった。あと一度でも『あいつ』に掴まれたら、もう逃げ切れない。
ダメージを受けたのか、気配はゆらりゆらりと覚束ない。だけどもう、すぐ後ろに気配を感じる。思わず振り向こうとすると、遠くから幽かに声が届いた。
「振り向いたらいかん。ゆけ」
――ばあちゃん。
涙が滲んだ。僕は全力で走りながら、松葉でっぽうを持った右手を必死で前へ伸ばした。
前方の光はどんどんと明るくなり、やがて目を開けていられなくなった。
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