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 白い天井、消毒液の匂い、ここは……病室か。  俺の右手は、松葉でっぽうではなく、息子の小さな手を握っていた。息子はベッドにもたれるようにして、すやすやと眠っている。  あれほど眩しく感じた光はどこにもなく、病室は黄昏時の柔らかな光で満たされていた。  確か職場で…………俺は倒れたんだ。  肩に冷たい手を感じた瞬間、手を突く事すらできず、視界に近づいてきた床を覚えている。そして、耳に息がかかるほど不自然な距離から「その命、貰い受ける」――――って、あの声!  そうか。ばあちゃんは、『あいつ』から逃れるのを、手伝ってくれたのか。  それにしても、ばあちゃんの焚いた風呂って、どんだけ気持ち良かったんだ。凍えるように冷たい『あいつ』を、骨抜きにするほどの効能があったなんて。俺も、ばあちゃんの焚いてくれた風呂に入りたかったな……。  松葉でっぽうを教えて貰った数年後、ばあちゃんは亡くなった。あの五右衛門風呂は取り壊されて、今はもう存在しない。ばあちゃんの炊いてくれた風呂に入るあの贅沢な時間は、二度と体験出来ない。
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