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私の職場は硝子回廊を南にまっすぐ、森林通りを抜けて、突当たりを右へ。電化化石の埋め込まれた階段を登ったところにある。水晶珊瑚で出来た建物の中、私の仕事は一つだけ。生まれてきた子どもたちに『おはよう』を告げることだ。
だけど、今日は特別な日。
「マザー!」
鉄楽樹の観音扉を開け、声をかける。いや、声を張り上げる。
ぴかぴかに磨かれた紙面床の上、メンテナンス作業を確認していたんだろうマザーが顔を上げた。
「おはようございます。ですが、今日はあなたの仕事はお休みでは?」
「えへへー。どうしてもマザーに言いたいことがあって来ちゃった」
「なんでしょう?」
小首を傾げたままマザーは目を眇める。私の好きな表情。
息を一つ、吸う。
「『お誕生日おめでとう』、マザー」
羽境教会の倉庫で見つけた古い古い資料。今どき液晶電盤でしか表示できないその旧時代の資料には平べったい画像とともに、こうあった。
『お誕生日おめでとう。今日はあなたの生まれた特別な日だ』
…なんて素敵な言葉なんだろう。そして、『おはよう』の仕事を持つ私になんてぴったりな言葉なんだろう。
だからいつか言いたかった。そして、その『いつか』の初めては絶対マザーがいいと思っていた。
今日はそんな、待ちに待った特別な日だ。
「ありがとうございます」
そしてマザーは私がその資料で見つけた通りの形式で返事をしてくれた。さすがマザー。そんな古い知識も網羅してる。
だけど、カタリ、柳眉が寄った。
「ですが…」
あぁ、マザー。どうして? どうしてそんな悲しそうな表情を作るの?
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