序章 『始まりの合図』

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もう一つの理由が、さっき言ったヒート…いわゆる『発情期』がきていない事に関係する。 普通ならば中学に上がると思春期と同時に発情期も併発して出てくる。個体差があるものの、オメガ全体の割合で言えば中学の終わりか高校入学までに一度は発情期を体験している場合が多いのだ。 ーそれが俺には一切ない。 自分自身的には発情期が来ていない事は嬉しいと思う限りなのだが、そうもいかないらしい。 ある程度発情期に対する抗体をつけており、周期的に来るためフェロモンの濃度が一定になる他のオメガ個体と違い、俺には発情期のはの字すら出ていない。もし突然発情期が出てきた場合、俺から発するフェロモンの濃度がより高くなる可能性出ているためだ。 フェロモンの濃度が高くなる、それは他のオメガ、ベータ、アルファ個体に何らかの影響を及ぼす可能性があるため担任との相談の末俺はクラスで自ら進んで空気として振る舞うことにしたのだ。 「なぁ、聞いていーか?」 「あ?何だ」 「俺はまだ発情期来てないらしいけど。それなのに、この錠剤はヒート抑制剤と言ってた…発情期来てない俺みたいなのにもフェロモンの抑制は出来るわけ?」 「……出来ない、な。前例がない」 「…あとさ、俺がオメガって事知ってるの限られた教師だけなんだよな?」 俺の質問に、目の前のイケ担任は唸り声を上げて茶髪の髪をかきむしる。 そして俺と視線を合わせたイケ担任は苦虫を潰したような、イケメンがするべきでは無いであろう凶悪な表情を浮かべていた。 ーわーイケメン台無し。 「俺の伝えた限りじゃ、信濃先生と、校長、副校長だけだ。だが…学園外でなら、お前がオメガだと知れる人物はいる」 「それは一体誰なんだ?」 「…分からん。が、恐らくはその錠剤を渡してきた組織辺りだろうな」 「ふーん…この"抑制剤"を、ね」 「俺が言ったのはあくまでも『そうであってほしい』物だ。本当にヒート抑制剤なのか、正確な事は分からん」 「……」 俺は抑制剤の入った透明な袋を手のひらで弄びながら、ぼーっと考え込んでいた。
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