第二章 『仮初めの日常』

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◆◆◆ 教室を出て真っ先に向かうのは、呼び出し人のいる別棟だ。 青峰学園はかつて寮付きだった。 理由は何だっただろうか。ー忘れてしまったが、数年くらい前に寮の全てを使えなくし自宅通学に切り替えたのだと言う。 今や生徒がいなくなり、学園の裏手に位置しているため存在すらもごく少人数しか知り得ていない場所だ。 学校案内でさえも存在を隠すように四角く切り取られ、生徒にすら忘れ去られてしまった別棟は苔こそはえていないものも、日陰に位置するだけあってひどくおどろどろしい。 所々に人間の手入れがあった形跡があり草すらも除草されている。 人間が住むに最低限な場所であり、他のことへの機能美だけを追及した場所なのだろうとも伺えた。 「雪島財閥のお手付きがあるとはいえ…これじゃあ怪奇映画に出てくる洋館そのものだ。こんなところにこの僕を呼び込んで透くんはどうするつもりなのだろうね」 別棟を見上げ、にんまりとお得意の笑みを浮かべる彼ー東堂瑛は鞄から携帯を取りだし着信画面に切り替える。 AM7:45分。『雪島透』 着信はその一件だけ。 生憎その時は携帯を身につけていなかったがために着信に気づくことが出来なかった。そもそもこの学園は携帯持ち込みを許されてはいれど、それを制服のポケットにいれて使用することは禁止されているのだ。 すぐに気づけっていう方が無理な話である それを考慮しているのか、一件の着信はすぐに留守電に切り替わり淡々とした口調で用件をつたえてきた。 『透だ。別棟で待ってる』 たったそれだけの単純な言葉。 しかしそれに深い意味があることに気づき、わざわざここまで出向いてきたっていう訳だ。 「全く…昨日といい今日といい、透くんは人使いが荒い」 深くため息はつけど、その整った顔に浮かべる笑みは消えずゆっくりと別棟へと歩んでいく。 ー 寮の作りは至ってシンプル。 七階まである高さに、一フロアの部屋数は二十五、部屋は二人部屋になっているようで単純計算して五十人はこの一フロアに入ることになる。 そして七階までのフロアで三百五十人。 三つある内の一つしか知り得ていないが、他の三つも同じ作りならば千人弱はゆうに入れる広さである。
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