第二章 『仮初めの日常』

34/43
前へ
/94ページ
次へ
◆◆◆ 今日も今日とて、残念な頭髪をさらし熱弁する中セン。 くどくどと蘊蓄を並べては自論を述べ、同意させるかのように話題を振りかざす。自分主義な領主を相手しているように思え、大きくため息をつきたくなった。 とうに二百は聞いたと錯覚するほど、中センは己の武勇伝とやらを熱弁するのだ。 なんのための50分か分からないほどに、うんざりする現社の時間が終わり中センが教室から出ていったところでクラスの空気が幾分か緩和された気がした。 「あー…疲れた」「俺なんか授業の内容全く覚えてねぇよ」「まぁ、あの中センだしな…仕方ねぇよ」 「前にも同じ話題を聞いた気がするんだけど…試験範囲大丈夫かなぁ」「次の試験で落ちたら確実に中センのせいだよね」 などと、わいわい騒ぎ出す。 会話を聞いていれば頷ける箇所は多々あるものの、自分の勉学態度を教師のせいにするのはどうなのだろうか。なにも現社の先生は中センだけじゃないんだ。 授業で分からないのであれば中セン以外の現社の先生に聞けばいいだろうし、自学自習というのが学生の本分ではないだろうか。 とはいえ、中センの授業のせいで現社という教科自体うんざりしてしまっているのなら何も言えない。気持ちも分からないわけじゃないからだ。 「なぁ、安藤」 「…ーうわっ…。あー、悪い…聞いてなかった。何だよ?」 ぼんやりと考え込んでしまっていたせいか、目の前に茶髪のクラスメイトの一人がいることに気づけず、思わず声を上げる。 茶髪メイトは集団で会話していたようで、その会話の流れで別の誰かに同意を求めようとしていたらしい。その時近くにいたのが俺だったため、話題を振ったようだった。 んで、その肝心の話題っていうのがー 「いい匂いのする後輩…?」 説明不足すぎてもはや意味不明である。 「そう!一学年下の後輩くんからいい匂いがしてな…俺一瞬我を失いそうになってよ。無意識にっつーか、気がついたら後輩くんに手挙げそうになってな。そんで聞いて驚け、次の時には吹っ飛んでた」 俺に話題を振った茶髪メイトが語り始める。 端的に説明するとすれば、茶髪メイトは一学年下の後輩の匂いに当てられ自我を失いかけ襲おうとした。話の流れから察するに、その後輩はオメガ性のようで恐らくヒートの真っ只中。そのせいでベータ性である茶髪メイトが翻弄され、吹っ飛ばされたってわけだ。 思わず笑ってしまう。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

266人が本棚に入れています
本棚に追加