第二章 『仮初めの日常』

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オメガ性は普段ではこれといった力の差がないのだが、ヒートの真っ只中となると力の差が変わってくる。 まさかベータ性であり先輩である茶髪メイトを吹っ飛ばしているだなんて…。あまりの滑稽な姿にこれが笑わずにいられるだろうか。 ー全てにおいて下にされるオメガ性が、中立とされるベータ性に一杯食わせたのだ。天晴れと言いたい気分である。 「あり得ねぇよな~まさか後輩にしかも、あのオメガ性に吹っ飛ばされるなんてよ」 どうやら茶髪メイトはベータ性がオメガ性に下回ることに否定的であり、それに同意を得るためその他のクラスメイトに同じような話を語って聞かせていたらしい。 それを知ったのなら対応は簡単だ。ー同意してやればいい。 俺の内心の感情は"天晴れ"の一言だが、わざわざここで対立するような言葉を紡いで目立ちたくはない。あくまでも俺はベータ性。ベータ性の茶髪メイトが否定的であるなら、否定的に返すのが普通だろう。 「ドンマイ。また実りのある日が来るさ」 ーが、やはり嬉々とした感情は抑えられず想像していたのとは違う言葉が口についた。 はっと息を飲むが、茶髪メイトはおどけられたと思ったようで快活に笑って背中を強く叩いてきた。…結果オーライという奴だろう。 ーー 昼食を買いにいこうと会話を切り上げ席を立って教室を出ていく。 向かうは購買ーではなく食堂だ。 どちらかといえば、購買の方が比較的安くすませられる。そのため今まで利用してきたが、件のあの一件以来購買に行くことすら躊躇ってしまう。 あの店員、フードの被った男かも女かも分からないアイツには今後一切関わりたくない。 一目見ただけでも羽虫が集ったかのよな嫌悪感。 本能的に拒絶しているのか、話題に出すことすらも遠慮したいほどなのだ。わざわざ自分から地雷に踏み込む趣味はない。 何となくだがあの店員は、東堂とかいうあの輩と同じ匂いがする。 購買へと続く道を右に逸れて、中庭が見える廊下の先を歩む。 ここ二年ほど、購買で昼を過ごしてきた俺にとって食堂へ行くルートは初めての体験だ。当たり前だが景色が全く違う。 購買は食料の調達をスムーズに済ませるためか、利益アップのためか教室棟に沿った面に位置してるため幾分か狭く感じられた。 しかし、食堂は教室棟を抜け中庭に沿った場所に位置しており一言で言えば明るい。 食堂へと続く渡り廊下からは中庭の様子が見え、まばらだが昼食に勤しむ生徒の行動がよく分かる。その中で、昼食も食べず不審な三人の人影。 今俺のいる位置からでは、先輩であろう青いネクタイをした生徒二人の顔しか分からず、残り一人は後ろ姿だけだ。 その三人は何かを話し込んだ後、場所を変えるのかどこかへ行ってしまう。
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