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「人って、いっぱいいるね~」
小鳩が途中ではぐれたのをいいことに、日和はのんびりと辺りを見回した。宴会も抜け出せたし、変な人間に呼び出されたし、今日は変わった日だ。
「ふらふらするな。社から出たこともないのか」
「あんまりないよ。人の世に用事なんてなかったし」
大きな道の左右には、歩きだした当初は間口の小さな掘っ立て小屋が並んでいた。それが、少しずつ別の様相になる。現在は、塀があって屋根しか見えない。
男が立ち止まった。
塀がめぐらされた立派な屋敷だ。日和が男に続いて敷地内に一歩踏み込むと、
「どなたかな」
重たく、誰かの声がかけられた。階(きざはし)に人が立っている。厳つい顔で、丈夫そうな織りの衣を着ている威丈夫だった。
日和の前に立つ、黒衣の男は、滑らかに言葉を紡ぎ返した。
「一ノ瀬六葉(いちのせろくは)と申します。国に安寧をもたらすため、こたびの一件を任されております」
「陰陽師か」
無言で、六葉は階に立つ男に一礼した。
「入れ。話をしよう」
「獅童(しどう)様は、これから参内される予定だったのでは」
六葉が問うと、獅童と呼ばれた男は軽く頭を振った。
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