2

1/11
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/262ページ

2

* 「人って、いっぱいいるね~」  小鳩が途中ではぐれたのをいいことに、日和はのんびりと辺りを見回した。宴会も抜け出せたし、変な人間に呼び出されたし、今日は変わった日だ。 「ふらふらするな。社から出たこともないのか」 「あんまりないよ。人の世に用事なんてなかったし」  大きな道の左右には、歩きだした当初は間口の小さな掘っ立て小屋が並んでいた。それが、少しずつ別の様相になる。現在は、塀があって屋根しか見えない。  男が立ち止まった。  塀がめぐらされた立派な屋敷だ。日和が男に続いて敷地内に一歩踏み込むと、 「どなたかな」  重たく、誰かの声がかけられた。階(きざはし)に人が立っている。厳つい顔で、丈夫そうな織りの衣を着ている威丈夫だった。  日和の前に立つ、黒衣の男は、滑らかに言葉を紡ぎ返した。 「一ノ瀬六葉(いちのせろくは)と申します。国に安寧をもたらすため、こたびの一件を任されております」 「陰陽師か」  無言で、六葉は階に立つ男に一礼した。 「入れ。話をしよう」 「獅童(しどう)様は、これから参内される予定だったのでは」  六葉が問うと、獅童と呼ばれた男は軽く頭を振った。     
/262ページ

最初のコメントを投稿しよう!