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そう言って私からスッと離れるリーゼロッテ。
離れる時に少しだけ名残惜しそうな顔をしていたように見えたのは、私の思い違いでしょうか?
目が合うと恥ずかしそうに視線を逸らされましたが、それも一瞬のこと。
直ぐにキッと強い視線を向けてきました。
「アデル」
「何でしょう?」
「その……聞かないの?」
これは……先程のことを仰っているのですよね?
聞いて欲しいのでしょうか?
少なくとも無かったことにしたいと思われていると感じたのですが。
ん? リーゼロッテの指先が微かに震えているようです。
唇も真一文字になっていますし、何だか表情も強ばっていました。
ふむ……ここは当初の予定通り、リーゼロッテが自ら公言しない限りは、いつものように接するとしましょう。
「はて、いったいどのことを仰っていらっしゃるのか、私には皆目見当もつきません。――ああ、そういえば一つありましたね。聞きたいことではありませんが」
「……何よ?」
「お見事な勝利でした。おめでとうございます」
「……え?」
「ですから、おめでとうございます。ですが――」
呆気に取られているのか、ポカンとした表情を浮かべているリーゼロッテ。
そんな彼女の両手を優しく握ります。
「あまり無茶をなさらないでください。リーゼロッテ様が優秀な方だということは私もよく存じ上げております。ご自身の身体に相当な負担がかかる魔力消費を、躊躇することなく使用したのは、私の異能を信じてくださったからでしょう?」
「え、ええ」
「信じてくださったこと自体はとても嬉しいですし、実行したリーゼロッテ様の気高い意志――硝子のように繊細なその美しさは、何物にも勝る素晴らしいものです。……しかしながら、無茶をされることで心配する者がいることも考えていただきたいのです」
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