5234人が本棚に入れています
本棚に追加
そのようなことは全く考えていなかったのでしょう。
リーゼロッテの瞳が揺れているのが分かります。
少しでも伝わってくれるとよいのですが……。
「……そうね。貴方の言うとおりだわ。ごめんなさい」
「いえ、分かってくださればよいのです」
「でもね、アデル。同じようなことがあったら、私はまた同じ行動をとるわ」
「それは何故です?」
心配する者がいると理解した上で同じ行動をとると?
その心理に興味を抱いた私は、即座に問い返していました。
「それは……アデルを他の誰にも……って! 何でもないわっ! ――貴方だって譲れないものはあるでしょう? 私にも譲れないものがあるというだけよ」
何か別のことを言おうとしていたような気もしますが――譲れないもの、ですか。
確かに私にも譲れないものはありますからね。
曲げることのできない絶対的なものが。
リーゼロッテにもあると言うのであれば、強制することはしたくありません。
ならば――。
「承知しました。――ただし。せめて私の目に届くところでお願い致します。私が傍にいるときでしたら、如何なる場合であろうとも完璧にリーゼロッテ様のサポートを致しましょう」
「えっ……!?」
大きく見開かれるリーゼロッテの瞳。
何もそこまで驚くことはないでしょう。
落ち着かせるべく笑みを浮かべ、握っている手に少しだけ力を入れます。
「リーゼロッテ様もたった今、仰ったばかりではありませんか。私にも譲れないものがある、と」
「アデルにとっての譲れないものがそれだと?」
「そうです。まあ、私の場合は両手で足りないほどたくさんございますが」
最初のコメントを投稿しよう!