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しゃがみこみコレットと同じ目線で話しかけると、ゆっくり顔を私に向けてきました。
彼女と目が合ったので微笑むと、数回瞬きをした後に「……アデル君?」という声を発したので「はい、そうですよ」と告げます。
「は、はいいいいいっ!? な、何でアデル君が!?」
そう言いながらものすごい勢いで後退りをするコレット。
狂気に満ちていた瞳も、普通の綺麗な水色の瞳にしか見えません。
――先程までのコレットとは全くの別人のような変わりぶりです。
ふむ。
混乱状態にあると思われるコレットにゆっくり近づきます。
「コレット先輩。落ち着いて下さい。はい、深呼吸――大きく息を吸って」
「スゥー」
「ゆっくり吐いて」
「ハァー」
コレットは私の声に合わせて、何度か深呼吸を繰り返しました。
「うん、もう大丈夫そうですね」
「あ、あの……アデル君。ここは演習場よね? 私はここでいったい何を?」
「……覚えていないのですか?」
「え、ええ」
そんな事が本当にあり得るのでしょうか?
普通に考えれば彼女が嘘をついているとしか思えないのですが、目を見る限りどうやら本当のことを言っているようですし。
「コレット先輩は、リーゼロッテ様と‘赤騎士’を決める試合をなさっていたのですよ」
「ええっ!? わ、私が‘赤騎士’を決める試合に? そんな……」
絶句するコレットを見ていると、やはり嘘をついているようには見えません。
頭を抱えながら必死に思い出そうとしているようですが、あの様子では直ぐには無理でしょう。
時間をおけば何かしら思い出すかもしれませんし、ソフィアによって回復したとはいえ、試合が終わったばかりです。
何より今ここで無理をして、コレットの身体に異常が発生しては困りますからね。
後のことは、教師であるソフィアとベアトリスに任せましょう。
ん?
視線を感じ、即座に振り返ります。
振り返った視線の先には――――ゼクスが飄々とした顔で見つめていました。
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