第9章 「冬休み編」

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「あの、エステル様は僕との婚約についてどうお考えなのですか?」  ミシェルは絞り出すような声で公王に問いかけました。  もっともな質問です。  この世界では、王族や貴族の婚約は親同士が決めることが多いと聞きます。  一番の理由としては、いつか起こると預言されている"災厄"に備えるべく、異能の血統を絶やさぬためだそうです。    昔、ある貴族の男性と異能を発現できない一般女性が恋に落ち、周囲の反対を押し切って結婚したそうなのですが、二人のあいだに産まれた子どもの一人は、異能を発現することができなかったとか。    そのことを知り、異能の血を絶やすことを恐れた王族や貴族たちは異能を発現できる者同士、つまりは王族や貴族以外と婚姻を結ぶことを禁止したそうです。 「そのことについては何ら心配することはない。何故なら、エステルが七歳の時からずっと言い聞かせてきたことだからな」 「は……?」  ミシェルが呆けた顔で固まってしまいました。   「エステルにはこの五年間、将来の伴侶となる相手はミシェルだと伝えていたのだ。もちろん、ヴァインベルガー家の次男であることやどんな顔なのかもディクセンを通じて知っている。今日、婚約発表をすることも含めて、エステルは了承しているのだ」  初めから仕組まれていたということですか。  ただ、リーゼロッテにも秘密にしていたのか、彼女は食い入るように公王を凝視しています。
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