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リーゼロッテはどこか魂の抜けたような顔をして頷いています。
公王の言い分は確かに正しいでしょう。
身分の高い者であればあるほど、礼儀や形式を重んじるものです。
リーゼロッテはわずかに顔を歪めて私の方を見ました。
「……」
私は息を詰め、唇を噛みました。
リーゼロッテの張り詰めた視線に込められたものを、私は如実に感じ取ってしまったからです。
もしも――私と婚約破棄をしていなければ、もしも、私が婚約を再び結んでいれば、この話が来ることはなかったでしょう。
ですが、私はどうしても言葉にすることができませんでした。
「ディシウス王国の使者とは誕生パーティーの後に会うことになっている。リーゼロッテ、お前も同席しなさい」
「……はい」
力なく頷くリーゼロッテを見て、私は数秒間、かつて覚えがないほど強烈な葛藤に見舞われました。
そして、気づいた時には思いもよらない言葉を選択していました。
「私も、私も同席させてはいただけませんか」
「アデル!?」
ぎょろりと目を剥くリーゼロッテ。
同じようにミシェルたちも目を見開くなかで、公王だけは柔和な笑みを浮かべていました。
「いいだろう。アデルも同席することを許す。ただし、名目上はリーゼロッテの護衛騎士としてだ。よいな?」
それはそうでしょう。
リーゼロッテの隣に同じ年頃の男性が座っていたら、使者の方も不審に思うはずです。
ゆっくり息を吸い、吐いてから、私は口を開きました。
「ありがとうございます、畏まりました」
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