第9章 「冬休み編」

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 ……思っていた印象とだいぶ違いますね。   犬猿の仲というぐらいですから、人の目がある場とはいえ、もう少し横柄な態度をとってくるのではないかと思っていたのですが。  ただ、底は見えない感じはしました。  終始、物腰は柔らかく丁寧なものでしたし、笑顔を向けていましたが、好意は最後まで感じられませんでした。  反対に、悪意や敵意といったものも感じることはなかったため、最後の言葉にどう答えるべきか迷ったのです。  多くの貴族の目と耳がある中だったので、差し障りのない返事をしましたが、早計だったかもしれません。 ◇   エステルの誕生パーティーと、それに付随して発表されたミシェルとの婚約は、概ね(・・)好意的なものでした。  概ね、というのは、一部の貴族から鋭い視線がミシェルに向けられていたからです。  敵意というほどではなく、どちらかといえば妬みのようなものに近いです。  何かしでかすような感じはありませんし、仮にそうなったとしても近くには近衛騎士もいます。  とりあえずは対象の顔だけ覚えておくことにしましょう。  リーゼロッテの顔色は開始からずっと悪いままでした。  何度も「大丈夫ですか」と声をかけたのですが、彼女は力のない笑みで「大丈夫よ」と繰り返すばかり。  大丈夫なようにはまるで見えません。    このあとにディシウス王国の使者との会談が控えているというのに……大丈夫でしょうか?  エステルの隣りでがちがちになりながらも笑みを浮かべるミシェルを遠目から眺めつつ、不安を感じていました。
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