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ディシウス王国の使者との会談を終えた後、公王は暫く一人になりたいと自室にこもってしまいました。
国のトップとして、一人の親としてどう決断するのが一番良いのか考えたいのでしょう。
「ごめんなさいね。エステルの誕生パーティーだけのはずだったのに、こんなことになってしまって」
「いえ、お気になさらずに。私よりもリーゼロッテ様の方こそ大丈夫ですか? ずいぶんと顔色が悪いようですが……」
「……大丈夫よ」
そう言いながら笑ってみせるリーゼロッテでしたが、彼女の瞳はどこかすがるような色を滲ませており、私はわずかに息を呑みました。
何か言わなければいけない、そんなことが頭を過ぎったのですが、今の私に何が言えるというのでしょうか。
沈黙したまま数秒間見つめ合っていた私たちでしたが、先に視線を逸らしたリーゼロッテが、沈んだ場の空気を切り替えるように歯切れのいい声を出しました。
「まあ、いつかはこういう話が来ることがあるかもしれないと思っていたから、アデルは気にしなくてもいいのよ! さあ、早く帰らないとどんどん暗くなるわよ」
有無を言わさぬ感じでリーゼロッテに背中を押された私は、そのまま電磁車へ押し込まれてしまいました。
手を振り見送る彼女の姿がどこか寂しげに見えるのは、私の気のせいなのか、それとも……。
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