第9章 「冬休み編」

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 電磁車が走り始めて数分。  隣に座っているマリーが、伏し目がちな視線を向けながら口を開きました。 「お兄様、よろしかったのですか?」 「……正直なところ、私自身どうしたらよいか分からないのです。いえ、違いますね。ただ私が臆病なだけなのです」 「臆病、ですか?」  意味が分からないといった感じに首を傾げるマリー。  マリーの隣に座っているミシェルも同じような顔をしています。   「ええ。また(・・)失ってしまったらと思うと、どうしても。それならば、私以外の誰かと一緒になったほうが幸せなのではないか、そう考えてしまうのです」  朔を失った直接の原因は私ではありません。  ですが、彼女を失ったことが私の中で一種のトラウマになっているのは事実です。  もし、私が愛した女性が朔と同じように目の前からいなくなってしまったら。  普通に考えれば有り得ない話です。  でも、絶対にないとも言い切れません。  一度でも考えてしまうと、そう簡単に抜け出すことはできないのです。  相手のことが大切であればあるほど、心の奥深く絡みつく。  まるで出口のない迷路のように、同じところをぐるぐると歩き続けてしまう。  新しい恋に対して私が一歩を踏み出せない一番の理由は、私自身の心の弱さにあります。
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