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私の言葉を聞いて、マリーが我慢しきれないというように口を開きました。
「それは違います」
マリーはひたと私を見据えました。
碧眼から強烈な意志力が噴き上げてくるような感じがします。
「お兄様、また失ったらというのは、私には良く分かりません。ですが、リーゼロッテ様がお兄様以外の方と一緒になったほうが幸せになるなんて、絶対にないですわ。それだけは断言できます。それとも、あの方の想いに気づいていらっしゃらないなんてことはないですわよね?」
「それは……」
気付いていないはずがありません。
アデルと完全に一つになったことで、より身近に感じるようになりましたし、前にも増してリーゼロッテから向けられる好意が分かるようになりました。
「お兄様だってリーゼロッテ様のことを憎からず思っていらっしゃるはずです。違いますか?」
マリーの言うとおり、確かに私はリーゼロッテに好意を持っています。
愛と呼んでいいのかは正直まだよく分かりませんが、彼女を失いたくないと思うこの気持ちに嘘はありません。
頷き返すと、マリーは満面の笑みを浮かべました。
「なら答えは簡単ですわ。お兄様がすべきことはただ一つ。リーゼロッテ様の想いに正面から向き合うだけです」
「ですが――」
「過去に起きてしまったことは、どうあがいたところで変えることなどできませんわ。でも、未来は自分の手で変えることができます。当たり前だと思われるかもしれませんが、変えようと思わなければいつまでも未来は変わりません。そして、『今』こそがお兄様にとっての『未来』なのです」
「今こそが……未来」
「失うのが怖いとおっしゃるのでしたら、お兄様が守ってさしあげれば良いではありませんか。ありとあらゆる全てのものから。私の大好きなお兄様は、目の前で苦しんでおられる方がいたら全力で手を差し伸べる、自慢の兄だと信じております!」
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