第9章 「冬休み編」

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 ただし、その動きはあまりにも遅く隙だらけです。  男たちの間を駆け抜ける速度はまさに迅雷。  誰ひとりとして反応することなどできません。  右の突き、左の蹴り、剣の柄による攻撃、そして右の蹴り。  私の繰り出す一撃ごとに地面へ倒れていきます。  瞬きする間に四人。  反応する間もなく急所を突かれた男たちは、その場で無様に昏倒しました。  対面した時から何となく想像はついていましたが、訓練などされていない素人同然の動きです。  異能さえ発現してしまえばすぐ終わると考えていたのでしょう。  お互いに近寄りすぎです。  車を降りた時点でもっと散開して、一人ないし二人ぐらい援護要員として後方に残しておけばよかったのですが。  残った二人には、私を認識する余裕がありました。  ですが、異能を発現する時間まであったわけではありません。 「く、くらええぇ! え――っ!?」  数メートルの間合いを瞬時に詰め、異能を発現しようとガードが上がり気味になった男の鳩尾に、単発の強烈な突きを放つ。  残るはリーダーと思われる一人のみ。  失敗を感じ取った男は咄嗟に車に乗り込もうと振り返ります。  その瞬間、闘争は終わりました。  何故なら彼が振り返った時には、既に眼前に私がいて首に手を伸ばしていたのですから。  足払いをして地面に押さえ込むと、残っている勢いを利用して一気に圧迫しました。 「この夜に相応しい、よい夢を見てください」  一瞬で落ちたであろう男に語りかけますが、当然のことながら返事は返ってくるはずもなく。  さて、この場に相応しい静けさが戻ってきたわけですが、彼らをこのままにしておくわけにはいきません。  私が見張っている間に屋敷から人を寄越してもらいますか。  そして、私は颯爽と身を翻し、ミシェルとマリーの乗る電磁車へと歩き始めました。
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