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「アデル、あーん」
「あーん」
リーゼロッテから私の口へと差し出されたフォークの先にある牛肉のソテーを、恭しく頂きます。
ともすれば。新婚カップルのような風景に見えるでしょう。
しかし、これは友人との間のことであり、ここは当然、屋敷の食堂です。
食事の賑わいが、一種異様な静けさで静まり返り、ほとんど呆れに等しい視線が二つ、私とリーゼロッテに送られていました。
「味付けはどうかしら。アデルの口に合うといいのだけど」
「表面はしっかりと焼いてあるのに中はしっとりと柔らかく、噛む程に肉汁が溢れてきます。絶品ですよ」
「お兄様、その肉を焼いたのはうちの料理人ですわ」
マリーがため息混じりに呟いていますが、聞こえないふりをします。
「こういう味付けがアデルの好みなの? わ、私も今度頑張って作ってみようかしら」
「いえ、料理人一人ひとりの味わいを楽しむのが好きなのですよ。私としてはこの味に合わせるのではなく、リーゼロッテ様の味わいを楽しみたいですね。それに――」
「それに?」
「リーゼロッテ様が私の為に作ってくださったものなら、それだけで嬉しいですし、何でも美味しいに決まっていますよ」
「え、ええ、頑張るわ! それじゃあ、次はこっちね。あーん」
「あーん。うん、美味しいです。ただ味が良いだけでなく、美しい淑女の手ずから食べさせていただくこの状況、形容し難い魅力があるというものです」
「美しいだなんて……アデルはじょうずね」
「私はあるがままの真実を述べたに過ぎませんよ」
「……もう。こっちも美味しいわよ。あーん」
「あーん」
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