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「そうですか、仕方ありませんね。では、リーゼロッテ様。庭園までエスコート致します」
「ふふ、ありがとう」
恭しく紳士のような振る舞いを見せると、リーゼロッテは柔らかい笑みを零しました。
二人して、使用人たちの手によって綺麗に刈り揃えられた芝生の上を歩き、庭園を目指します。
庭園に近づくと、目の前にはクレマチスの蔓が伸びたアーチが出迎えてくれました。
下向きに咲く白いクレマチスの花は、派手さはないものの、十分に冬を楽しませてくれます。
アーチを通り抜けた際に、フワリと甘い香気が漂いました。
庭園には誰もおらず、空を見上げれば澄み切った青空が広がっています。
「数日前のことが嘘のように穏やかね」
「そうですね」
リーゼロッテが言っているのは恐らく……。
「……まだ不安ですか?」
優しく話しかけると、リーゼロッテは急に心細そうに視線を揺らしました。
美しい蒼色の瞳の奥に、私の顔が写り込んでいます。
「そうね……不安がないと言えば嘘になるわ。ディシウス王国へは行ったことがなければ、ギルバート王子とお会いするのも初めてだもの。しかも、話の内容が婚約についてだなんて……お断りすると決まっていても、ね」
出会った頃からいつも強気で勝ち気なリーゼロッテの眼差しが、その瞬間悲しそうに揺れました。
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