第1章 最上紳士、婚約破棄を宣告される

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『このまま死んでくれれば……』 『……がお見えに……』  んん? 近くでどなたか話していらっしゃるようです。 『これだけ……後継ぎは、ミシェル……』 『せめて異能が……この子も……』  二人いて何か話しているのは確かなのですが、聞き取りにくいですね。  身体に力を入れますが、指すら動かせません。  うーん、流石に数日高熱が続いていた身体です。  直ぐに起き上がれそうにありません。  感覚はあるので、神様が仰っていた通り、転生自体は成功したようです。  そんなことを考えている内に二人とも話が終了したようで、パタンと扉が閉まる音が聞こえました。  一体何を話されていたのか気になりますが、まずは寝てしまいましょう。  睡眠は大事ですからね。 ◇  ゆっくりと目を開けると、周りには誰もいませんでした。  はて? この世界でも当てはまるかどうかは分かりませんが、公爵家の継嗣と言えばかなり重要な人物のはずです。  死にかかっているにもかかわらず、誰も近くに控えて居ないというのおかしいですね。  ゆっくりとベッドから起き上がり、部屋を見渡します。  異世界というからにはもっと中世的な雰囲気を想像していたのですが……そう言えば神様は文明は地球と大差ないと仰られていました。  でしたら納得です。  ただ、公爵家継嗣に相応しい豪華な部屋ですね。  天蓋付きのベッドは一流高級ホテルで使用されているようにフカフカですし、天井のシャンデリアもクラシックなデザインです。  備え付けられているソファや机に椅子、本棚に至るまで黒で統一されており高級感が漂っているではありませんか。  おや、扉が二つ見えますがこれは一体?  まだ力が完全に入りきらない身体を何とか動かし、ベッドから下ります。  ゆっくりと扉に近づき、ドアノブに手を掛けて扉を開けると、中は浴室兼トイレでした。  当然普通の家にあるようなものではなく、ホテルのスイートルームのように広々としています。  ということは、もう一つの扉が廊下に繋がっているというわけですか。  思わず溜め息を漏らします。  これまで生きてきた四十年の人生と比べるとあまりにも生活が違い過ぎて言葉になりません。  神様、有難うございます。  感謝の気持ちが届くか分かりませんが両手を胸にやり、神様に向かって祈りを捧げました。
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