第1章 最上紳士、婚約破棄を宣告される

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 それにしても、汗で身体がベタベタします。  軽くシャワーを浴びておきますか。  着ていた服を脱ぎ捨て浴室に入ると、シャワーの蛇口を捻り、温かいお湯を浴びます。  ひとしきり髪や身体を綺麗にしたところでシャワーを止め、備え付けのバスタオルで水気を拭き取っていると、鏡に映っている新たな自分に気づきました。  これが私……ですか。  サラサラと流れるような金髪に美しい碧眼。  身長は百七十センチ以上はあるでしょうか。  十四歳という年齢を考えればまだまだ成長の余地はありますから、将来有望です。  と、ここまでであればカッコいい少年を想像するかもしれませんが、そんなことはありません。  何故なら。  ――体形が致命的でした。  良く言えばポッチャリ、悪く言えばデブ。  百キロとまでは言いませんが、九十キロ近くはあるのではないでしょうか?  樽のように太っているせいで、顔まで醜く見えてしまっています。  痩せればそれなりに見えると思うのですが……。  一体どんな食生活をしていたのか、見直す必要があります。  気を取り直してベッドのある部屋に戻ると突然カチャリ、と扉が開きました。  もちろん服は着ています。 「アデル様!? お目覚めになられたのですかっ」  入ってきたのは長身の男性で、グレーの瞳は驚きに包まれています。  ええっと、この方は……そうそう、確か(アデル)専属執事のルートヴィッヒでした。  年齢は五十歳。  白髪交じりの茶色の髪をオールバックにしていて、ロマンスグレーという表現が一番しっくりきます。  あれ? 何で名前が分かるのでしょうか?   それに言葉も理解出来ています。  うーん、どういうわけかは分かりませんが、生前のアデルの記憶や知識が残っているということでしょうか。 不思議なことですが、会話が成立するのとしないのとでは大違いですからね。  ひとまず気にしないでおくとしましょう。   「心配をかけたようですね、ルートヴィッヒ。私はこの通りもう大丈夫です。それよりも、部屋に入る前にはノックをするのが礼儀ではありませんか?」 「はっ……? こ、これは申し訳ありません! アデル様が急にまともな事を……」  ルートヴィッヒは私の発言が珍しかったのか、先ほどよりも目を丸くしていましたが、直ぐに折り目正しく謝罪をしてきました。
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