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活写
牧野先輩はちっとも僕をそっくりに描いてくれない。
僕達は美術部ではなくて放送部。
放送室で、高校二年生だけど小学生でも通用するくらい小さな牧野先輩は、椅子の上にちんまりと正座をしてスケッチをする。
部活をサボってスケッチをしている訳じゃない。
部活が終わってみんながバス時間を待ちながらおしゃべりをしている間に、牧野先輩はスケッチブックを取り出して、少ない放送部員達を毎日交互に描いていく。
そっくりじゃないのは僕だけじゃなくて、他の部員も同じ。
けど男が僕だけのせいか、僕だけやたらカッコよく描く。
「だって吉水くん、かっこいいんだもん」
かっこいいなんて言われたこと、僕は一度もないのに、恥じらいもなくそう言って、牧野先輩は僕を描く。
僕と牧野先輩が一緒に部活をできたのは、一年と半分しかなかった。
けれど先輩は、引退してからもスケッチをする為によく放送室を訪れた。
小さな牧野先輩が部活の邪魔にならないように部屋の隅っこでスケッチをしている様子は、先輩に対して失礼だけど、とても可愛らしかった。
牧野先輩の卒業式。
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