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帰りは式場の放送設備撤退でごたごたするだろうと、朝のうちに三人の後輩と一緒に先輩達に挨拶をして回った。
もうすぐ大学生なのにとっても小さな牧野先輩は、僕達みんなに、
「ありがとう、元気でね」
と言った。
何だか結構、寂しかった。
撤退を終えて部長の僕は放送室で一人、春休みの部活動の計画を立てていた。
そこに小さくノックの音。
大きな防音扉を重そうに開けて、入ってきたのは牧野先輩だった。
先輩の腕にはスケッチブックが二冊抱かれていた。
「入っていい?」
卒業してこの学校の人じゃなくなってしまった牧野先輩は、遠慮がちに放送室に入る。
先輩は僕の向かいの椅子に掛けて、片方のスケッチブックの一ページを捲る。
僕の絵だった。
いつもはそっくりに描いてくれないのに、今日の絵はちゃんと似ていた。
牧野先輩の絵を見るのももう最後、その最後にそっくりに描いて貰えたのがとても嬉しかった。
先輩は、絵から視線を上げた僕を見る。
「この絵はね、吉水くんが一年生の時に描いた絵なの」
驚いてもう一度絵を見る。
右下に、一年半くらい前の日付けが書いてあった。
「幼い感じ。今はもう少しかっこいいかな」
僕を見つめて、いつものように恥ずかしいセリフを恥じらいもなく言う牧野先輩。
いやいや、幼い感じでちょうどいいのだけれど。
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