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「ねぇ、今日も描いていい?」
先輩の言葉に僕は頷く。
防音されて外界と遮断された静謐とした放送室で、春休みの計画を立てる僕を、牧野先輩はいつもより時間をかけて描いてくれた。
出来上がった絵は、やっぱり少し僕に似ていなかった。
けれど、これが牧野先輩から見た僕なんだ。
先輩はその絵を切り離して、僕に手渡した。
「何年か経って、吉水くんがこの絵とそっくりになったら報告してね」
何だ、似てないってわかってるんじゃないか。
無邪気に笑って席を立つ先輩。
僕は焦ったように先輩を追って立ち上がった。
「報告しません!」
そして絵を返す。
「その、自分で、確認して下さい」
先輩は僕を見上げて、両手で絵を受け取る。
絵を見て、また僕を見る。
「いいの?」
不思議そうな口調に、僕は照れながら返事をした。
「もし良かったら、いつでも確認していいですよ」
先輩は僕のことを好きだと言うけれど、悲しいことにあまり恋愛対象って感じではないようだ。
僕は振り向かせたくて時々画策して、先輩が開放的だから釣られて好意を公言したけど、あまりピンとこない。
側から見たら両思いらしいから、僕なり、先輩なりの想い想われかたで今はいいのかな、と考えることにした。
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