第二話 つり橋

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 耳聡いコイツがその音を聞き逃すわけはなく、傍らのデイパックを手繰り寄せると中からチョコバーを取り出した。 「こんなんしかなくて悪いけど」  申し訳なさそうにそれでも俺を安心させようとして笑う顔が切なくて、胸が少し締め付けられた。 「……ありがとう」  危うく絆されそうになったが、こういうのを何と言うか知っている。「つり橋効果」だ。  人は危機的状況に陥って心拍数があがったりすると、その時傍らにいる人間に対する感情による興奮だと勘違いしてしまい、恋に堕ちたりするという。 「あ、火とかも起こしておいたほうがいいかな。夜になったらもっと冷えるだろうし」  立ち上がろうとする男の肘を思わず掴み留める。離れていってしまうことに急に寂しさを感じたからだ。  そうだ、こんなに暗くて寒くて寂しい場所にいるというのに今までさして不安を感じなかったのはコイツがいたからだ。 「そんなのいいからさ、抱いててよ……」  そう言って筋肉がほどよくついた厚い胸板に頬を擦りつけた。  潮の匂いに混じって嗅ぎなれたコイツの匂いと、トクントクンと優しいリズムを刻む心臓の音が気持ちを落ち着かせる。  これは「つり橋」かもしれないけど――――  他の誰かでもこんな安心感を得られるのだろうか? こんなに優しい気持ちに包まれるのだろうか?     
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