第三章 匂い

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 秋の日は釣瓶落としとはよく言ったものだ。先ほどまでバカジャネーノという位のんきに陽気を振り撒いていた太陽が、もう窓の外遠くのビルのシルエットをオレンジ色に染めるだけのちっぽけな存在になっている。俺は立ち上がりライトをつけるのすら面倒で、薄暗い部屋の中ぼうっと浮かび上がる携帯の画面を眺めていた。  ソファに仰向けに寝転がったまま、携帯のカーソルキーを何度上下に移動させたことか。  次々と現れては消えて行く電話帳の名前たち。  ――別に誰だっていいんだけど。  ただ、女だといろいろご奉仕しないといけないし、ごちゃごちゃといろいろ詮索されたりするのもウザい。  メンドくさくない男のほうが今の気分には合っている。  そんな、する必要もない言い訳をかれこれ三十分は繰り返していたが、ついに俺はちっと舌打ちをしてそのうちの一つを選び出し、コールボタンを押した。  結局、呼び出したのは一番メンドくさくない男。 『よぉ、どうした? 久しぶりじゃん』  数コールの後に繋がった電話。騒がしい雑音が入ることで相手が今、外の喧騒の中にいることが窺えた。 「今からウチ来れる?」     
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