君と

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隆司は吉祥寺の京王線ホームに立ったいた。休日の朝、駅は人で賑やいでいる。学生の頃と変わっていない。懐かしい風景だった。 「ママ、この辺りで電車を待っていたわ。コートも甲府にいたときと同じマッキントッシュのショートトレンチ。」 隣に立つ真奈美は父親を見て言った。 「ベージュのやつか。」 隆司は服のブランドには詳しくないが、貴子はそのコートを気に入って良く着ていた。 「そう、まだ寒い日も多いからきっと着ているはずよ。ここで日がな降りて来る人を見張っていれば、きっとママが見つかるはず。」 真奈美は嬉しそうに言った。どうやら探偵にでもなった気分のようだ。 「分かった。そこに座って見張ろう。」 ホームの青いベンチを指して隆司は言った。 「パパとママはどうやって出会ったの?」 真奈美は暇を持て余したかのように尋ねた。初めこそ電車が来る度に集中してホームに熱い視線を送ったが、2時間でその集中力は切れたようだった。 「聞いてなかったか?大学のサークルだよ。インカレの。」 隆司は少し恥ずかしそうに言った。出て行った妻をこうして駅のベンチに座って探すなんて、学生の時は想像もしなかった。 「サークルか。何か青春って感じだね。」 真奈美にはサークルもインカレもピンときていない様子だったが、それでも分かった風に言う。 「ママの何処が好きだったの?」 ー私の何処が好きなの? 貴子に聞かれたような気がして、答えに困る。 「そうだな。自由奔放なところかな。」 そう言ってみて、それで失踪されたら世話ないなと隆司は心の中でつぶやいた。 「それに、ママはとても綺麗だった。真奈美は若い頃のママにそっくりだ。」 「それって私も綺麗って言ってる?やめてよね。」 真奈美は満足そうに言った。母親に似ていることは彼女にとってと誇りの1つだった。 三人で甲府に住んでいてる時は、貴子と真奈美は母娘というよりは姉妹のような雰囲気があったし、実際二人は中学の制服を着てディズニーランドに出掛けたりして、隆司を呆れさせていた。 だからこそ、貴子が真奈美のもとからも姿を消すなんてあり得ないように隆司は思った。 貴子は今何をしているのだろうか。
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