良心に背き続けた男

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これだけの証拠が揃っていれば有能な義子であっても社長が庇護(ひご)するはずもなく、容姿はどうあれ可愛い一人娘の味方として立ちはだかることは目に見えている。 そうなれば遺産はおろか仕事を失い、莫大な慰謝料すら請求されるだろう。よしんばそれを無視して逃げたとしてもこの企業主ならあらゆる情報網を使って捜し出し、けじめをつけさせることだろう。 この時、上手くいっていた全てが逆転した。 『お前さえ!・・お前さえいなければ!』 破れかぶれにそう思った瞬間、彼の両手は美智枝の首を絞めていた。 声も出せず、もがきながら自分の腕を引っ掻き抵抗していた美智枝の手が垂れ下がると研次は我に返った。 やがて静寂が支配する室内で彼は悔いた。 だが、それは自分の行いではなく、上手く事を運べなかった自分に対してだった。 「くそ!・・くそ!」 半狂乱になりながら棚にある洋酒を瓶ごと呷(あお)ると、タンスからタオルを引っ張り出し、ドアノブにそれを掛けて研次はその生涯を終えた。image=509527174.jpg
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