良心に背き続けた男

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予定のない休日前、研次は明け方まで一人飲み直し、タクシーで帰宅するつもりでいた。 既に静まった雑居ビルが犇(ひし)めく通りで灯りを目指し、辿り着いたスナックビルを見上げると建物の横に店名が入った電飾看板が色鮮やかに並んでいる。 その中でピンク地の白抜きでデザインされた“Heaven”の文字になぜか目を引かれた。 店の所在する3階に降り立つと二人の帰り客に見送りのホステスと鉢合わせになった。 よくある間の悪さに辟易としたがそこをすり抜け店の看板を探す。 『あった!』 そう思った時にホステスの靴音が速度を上げて近づいてくる。 研次が振り返ると彼女はその前に立ち塞がった。 「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。さぁ、どうぞ。」 初対面であるにも拘わらず、臆面もなく常連客を相手にするような機転を利かす女性に研次は興味を抱いた。 彼女が他の店の所属なら研次は間違いなくそこへ入店しただろう。それが真知子との邂逅(かいこう)だった。
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