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やがて常連になると研次は裏の顔を隠しながら次第に真知子との距離を縮めにかかる。
彼が気にかけていた真知子からの好感度は悪くなく、そこに商売は絡んでいないようだった。
研次が想像していたものとは異なり、真知子の水商売の歴史はまだ長くない。
彼女の前職は美容師でその免許も持っていたが肌の弱さから長年手荒れに苦しみ、結局その道を断念した。しかし彼女は腐らず、新たな夢を描いていた。
元来酒好きな真知子は料理が得意だった母の味を引き継ぎ、それを世に出すべく小料理屋の開店資金を調達する為にこの世界に足を踏み入れた。
前職でも鍛えられた人情の機微に敏感な彼女だから、当然、常連である研次の顔を立ててアフターへの誘いも断らない。
尤(もっと)も研次の表向きの顔しか知らない真知子はそれを厭(いと)うはずもなく、彼に惹かれつつもあったのだが。
程(ほど)なくして彼等は深い関係を持つに至ったが、研次はここで大いなる不義をはたらいていた。
自分に家庭があることを伏せていたのである。
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