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彼女の声はかすれていたが、それは確かに愛する人の声だった。
「愛してるわ」
「愛しているよ」
彼女の姿は、いつだってベッドの上だった。首から下は常に布団で覆われ、その体がどうなっているのかわからなかった。
それから一年が過ぎ、とうとう彼女の退院の日を迎えた。
僕は隔離病棟から出てくる彼女を今か今かと待っていた。せっかくの退院の日だからと彼女が好んで着ていたワンピースを用意しようとしたら、驚かせたいから洋服は友人に頼んで用意してもらったという。そんなこと全く知らなかったから僕はその友人にすら嫉妬していた。
そう、その時を迎えるまでは。
隔離病棟の、無機質な、それでいて重厚な扉が開いた時、僕は歓喜に震えるはずだった。
しかし実際の僕は困惑と、頬をつねりたい気持ちでいっぱいだった。
「幸助さん」
その声も笑顔も愛する妻のものなのに、首から下が明らかに違う。笑顔でゆっくり近づいてくる妻にどう対応したらいいのかわからない。
そうして、背の高くなった妻の逞しい腕に抱きしめられた。
「ああ……ずっと、こうしたかった。ねぇ、どんな私でも愛してるって言ってたわよね?」
「……も、もちろんだよ」
脳裏にとりともめもない考えや思いが浮かんでは消える。
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