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我は城のバルコニーに立ち、外の空気を存分に堪能していた。
そこから見える風景を見下ろし、思わず声が出た。
「ああ、今日は世界が動く、特別な日になるだろう」
その言葉に応えるかのように、風が我の傍を吹き抜けていった。
「魔王様、このままここで勇者たちを待ち受けるつもりですか」
城の中に戻って早々、我の最も信用のおける部下であるルチアが訊ねてきた。
鋭く先を見通す赤い目が、我をじっと見つめていた。
我ら魔王軍は、既に潰走状態。
人間軍の用意した勇者たち精鋭部隊に、我ら魔王軍を破壊されていたのだ。
「然り。この戦争は、我が始めたもの。我自身が始末をつけず、誰がつけるというのか」
我は玉座に座り、ルチアに答えた。そしてルチアの方を見て問うた。
「ルチアよ、お前は今まで良く働いた。しかし、お前まで我の最期に付き合う必要は無い」
「何を言うのですか魔王様。貴方様は私の主。私はいつまでも、貴方様のお傍に居ます」
ルチアは真っすぐとそう言った。
魔族の中でも優れた技能と美貌を持ちながら、それでも戦のみに生きた彼女は、何を想っているのだろうか。
魔王と呼ばれる我であっても、計り知れぬ事が沢山有る。
暫く我らの間を、静寂が支配した。過去に想いを馳せる時間と言う事だろうか。
勇者たちはもう、すぐそばに来ているはずなのだ。決定的な時が、もうすぐ来る。
ふと、扉を開ける重い音が聞こえ、我は顔を上げた。
「魔王! ここに居るのか!」
「居るとも、人族の勇者よ」
我は笑い、勇者たちを眺めた。
「今日は特別な日だ。歓迎しよう」
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