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今度は幸太郎が身を乗り出して大野の言葉に何度も頷いた。
実体験している幸太郎だからこそ同意出来る大野の一言一言。
それらに深く納得していると、そういえば……と、ふと思い出す。
あの場を離れる時に大野が言った言葉。
『大丈夫、彼等は直ぐに正気を取り戻す。…………誰かを強く恨んでなければ……だがね』
恐怖を宿した人間による狂気は、恐怖の対象が過ぎ去れば直に落ち着く。
だが……あの場の誰かに向けたものでなくとも、その胸に強い恨みや妬み嫉みを抱えている者が居たならば……もしかしたら幸太郎達が立ち去った後でも悲劇は続いていたかもしれなかった。
そう考えたら幸太郎の脳裏に、兼平の血塗れになった顔が過ぎった。
「で、これからどうするかなんだけどね」
大野が話を続けたので、幸太郎は兼平の姿を頭から振り払って大野の言葉に集中した。
「先ず第一にやらなければならない事は、狗神を解き放った……若しくは生み出した人物を特定する事だ」
「…………は?」
「狗神は自然発生するものじゃない。元々壺術と呼ばれる呪術だ。
その方法は幾つか伝えられているが、最も知られているのは飢餓状態の犬の首を人がよく通る道に埋めるタイプだろうな。そうすると犬の怨念が増して狗神と成るって話だ。だが、今の時代で土で出来た道で往来の多い場所なんてそうそう無いだろうし……その方法で生まれる狗神は一匹だけだ。一度に同時に発生している今の状況を考えれば誰かが複数の狗神を野に解き放ったとも考えられる。まぁどちらにしても誰かが人為的に引き起こしたという事になるし、その意図や方法は本人に話を聞かなければ分からない所だな」
大野の話は少し専門的で、薄気味の悪いものだった。
話の全部を理解するのは難しくとも、卑劣で最悪な人間が居るのだろう事は幸太郎にも分かった。
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