一匹目

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 ふわり。  舞い落ちる桜の花弁の群れ。  その中の一枚(ひとひら)が重力に逆らって浮かび上がる。  夢遊病者のようにふらふらと、薄朱色の一片が自分に向かってくるのに気付いた【小笠原 若葉】は胸の高さで両手で皿を作ると、花弁は吸い込まれるように手のひらにその身を寄せた。 「……人間にも桜にも、“皆と一緒が嫌”っていう困ったヤツがいるんだねぇ」  そう苦笑しながら呟くと、今歩いてきた道を振り返る。  視線の先には先程出てきたばかりの、若葉がこの4月から通っている高校の校舎。  その離れにある体育館で今頃部活に勤しんでいるであろう腐れ縁の幼馴染み。  彼の事を思い浮かべて若葉は眉をハの字に歪めた。  小学校から何故かいつも一緒のクラスになってきた【高橋 幸太郎】は個性が強い。  良く言えばクラスを明るくするムードメーカー。  悪く言えば枠に収まらないはみ出し者。  なので高校受験の時に、9割強が女子、一学年につき男子が10人程度しか居ないこの高校を受けると聞いた時も何となく納得した若葉だったが…………まさかまた同じクラスになるとは思ってもみなかった。  もっとも……実は幸太郎がこの高校のバスケットボール部から誘われていたなんて事は後から聞いた話。  そして、かく言う若葉もバレーボール部の推薦で入った為に、体育学科で同じクラスになるのは必然ではあったのだが。
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